ベネッセの通信添削講座に「進研ゼミ」というものがあります。小学生・中学生・高校生とそれぞれの学年で講座が設けられています。利用している児童や生徒が非常に多いので、誰もが知っている講座でしょう。
高校生の講座、特に数学は素晴らしいです。私が教えている塾に通う生徒が、毎月、理系の難関大学の受験生を対象とした講座のテキストを塾に持ってきて、私に質問をしていました。問題の選択もよく、解説も細かいところまで丁寧に書いてありました。あのテキストを一般書籍にまとめて販売したら高い支持を得られるだろうなと思ったりもしていました。
小学生と中学生用の講座も、児童や生徒が私の塾への体験入塾のときに、家庭で使っている教材として持ってきて、内容をみたことがあります。高校生のテキストは、大学受験を目的とした内容になっています。難度は、最難関大学への合格を目的としたZ会の通信添削よりはずっと易しいですが、そえれでも、中堅から難関の国立大学や私立大学の合格に向けて役立つ内容になっています。手応えを感じるテキストです。
けれども、小学生と中学生の講座の場合、コンセプトが高校生の講座とは大きく異なるように思えます。小学生や中学生が進研ゼミの講座で勉強したとき、勉強の手応えを感じることはどのくらいあるのでしょう?
小学生や中学生の講座の目的は、私が思うところでは「家庭で全く勉強をしない子どもが、少ない時間でかまわないから勉強をするようになってもらいたい」ということの気がします。勉強をなんとかやってもらうために、学習内容を簡単にし、学習内容の量も少なくし、漫画やイラストを豊富に盛り込んでいるのだろうと思います。そして、中学校の中間テストや期末テストの対策のテキストも、平均点をとることが目標となっているような簡単な内容です。
学校の勉強についていけない児童や生徒にとっては、とても良いテキストでしょう。上の学年に進んだとき、勉強がわからなくなることがないように必要最低限のものは学べるようになっています。そして、分かりやすい内容に仕上がっています。
ですが、学校の授業の内容が普通に理解できる学力の児童や生徒にとってはどうでしょうか?テストで良い成績をとろうとして進研ゼミを頑張ったところで、学習の中心は易しいことがらなので、勉強時間のわりに得点は上がりにくいということになります。
つまり進研ゼミをやったところで成績が上がらない児童や生徒というのは、進研ゼミをやらなくても同じだけの得点がとれる児童や生徒なのです。
ここで、ちょっとした問題があります。母親が短大や大学などの学歴があると、子どもの学力も高くなる傾向があるということがらが明らかになっています。教育社会学という学問世界では、この事実を示す統計調査が数多くあります。なぜ、母親の学歴が高いと子どもの学力が高くなる傾向があるのか(もちろん、傾向ですから例外もあります)の理由の1つが、この「進研ゼミ」だと思います。「進研ゼミ」は非常に有名で、タブレットを利用したコンテンツがある、楽しげなつくりにもなっている、学校の友だちの中にも利用している人がかなり多いので児童や生徒はやってみたいと思うでしょう。親としても、月々の料金が塾などに比べて安いので、進研ゼミを選択するのでしょう。
ここで短大や大学卒業の学歴の母親ならば、内容が易しいため、自分の子どもには合わない、もっと難しいものに取り組ませたいと判断することがあるでしょうが、そうでない母親は、皆がやっているなら大丈夫だろうと、子どもに続けさせてしまいます。そのため、学力は普通以上の子どもは、進研ゼミを利用することで、学力が高まりにくい状況が生じてしまうおそれがあるのです。
自分の子どもが進研ゼミをやりたいと言い出した場合、あるいはすでにやっている場合は、子どもに「進研ゼミは易しいか、やりがいがあるか、これをしっかりやれば成績がもっとあがりそうか」と質問し、正直な感想を聞いたらよいと思います。子どもは、難しい勉強はやりたがりませんが、易しい勉強も面白みがなくてやりたがりません。もしも、進研ゼミが易しい場合は、子どもの学力より少し上のテキストなりを、子どもと一緒に本屋で探して、子どもの勉強への意欲を考慮した勉強時間でそれらをやらせるのが、賢い母親の判断だと思います。
また、自分の子どもは学校の勉強について行くのがやっとだという場合は、進研ゼミは最適の教材の1つだから、それらをしっかり学ぶよう応援するのが、やはり賢い母親の選択だと思います。