中学の時は、さしたる努力もせず、勉強がとても良くできても、高校になると全くできなくなってしまう人がかなりいます。偏差値70の高校に余裕で入ったのにその後はさっぱりダメだというケースもよくあります。また、小学校のときは遊んでいても勉強の成績がクラスでも上位にいたのに、中学に生になったら普通の人よりもできなくなった人もいます。
これらの原因はなんでしょうか?集中して授業を聞かなくなった?単純に勉強が難しくなった?勉強に気持ちが向かわなくなった?部活などでいつも疲れているから?
いろいろな理由が挙がりますが、どれも正解ではありません。正解は、脳科学の記憶のメカニズムで明らかにされています。
勉強ができなくなった原因は?
それは「記憶の干渉」というものです。
小学校の時のことを例にして考えます。学校の授業で3つの量だけある事柄を習ったとします。たった3つの量なので、簡単に記憶化されます。たちまち覚えていつでも思い出せるような整理された状態でしまわれます。翌日も3の事柄を倣いますが、昨日習った3つの量はしっかりと脳のあるべき場所にしまわれているので、翌日に習った3の事柄と上手に関連付けられ、整理されてしまわれます。学習する量が少ないと、毎日3ずつ習っても、その3つずつは、毎日上手に関連付けられ使える知識、すぐに思い出せる知識として蓄えられて行きます。特に復習することもなく、無意識のうちに脳が自動でやってくれています。
中学校の勉強では、この3つの量が10ぐらいに増えます。その子どもの頭脳の働きが8つの量までは無意識の内に上手に頭の中で整理されて蓄えられていくとして、小学校の時の毎日の3では問題は起きませんでした。ところが中学校で、毎日10ずつの量だけ新しく学んでいくと、覚えきれない、整理されていない、脳内のあるべき場所に収まらない、今まで蓄えられてきた知識と関連付けられない事柄が、毎日2ずつ増えていきます。
このはみ出した2つの事柄、覚えきれなかった事柄は、ないものとして記憶の彼方に流れ去っていくなら問題はありません。この2つの知識は、他と正しく関連付けられれないまま、脳内の変な場所、インデックスとして間違った場所に居座り、他の知識体系に干渉し、妨害し続けるのです。
覚えるべきことが多すぎて、整理して覚えきれなかった場合、これまでに覚えきれなかったあやふやな知識が、新しく理解し覚えようとする事柄に対して理解と記憶化の邪魔立てをするのです。今まで習った事柄がしっかりと定着しなかった場合、新しい知識は、暗記どころか理会すら困難になります。これをメタ認知では「順向抑制効果」と呼んでいます。
それから、昨日まではある程度まで理解と暗記ができていたのに、今日新しいことを多く習いすぎて、昨日まで習ってきたこともわけがわからなくなったというのもあります。頑張って何とか理解し覚えたものが、変なことを新しく習って、昨日まで習ってきたことも今日習ったことも、どちらも全くわからなくなったというものです。
英語などで、be動詞の文や一般動詞の文で普通の文を習っていた時は、be動詞の文と一般動詞の文をなんとなく区別できていたが、それらの文の否定文や疑問文も出てきたら、今までできていたbe動詞と一般動詞の使い分けもできなくなったというようなものです。これは「逆行抑制効果」という干渉です。逆行抑制の一番簡単な例は、新しいものを1つ覚えると古いものを1つ忘れることです。これは記憶のメカニズムとして自然です。頭が悪いわけではなく、皆そうです。古いものを忘れず、どんどん記憶をため込んでいくと、記憶の情報が整理されにくくなり混乱してしまうから、知識の総量がほどほどを保つよう、古い知識を捨てているのです。
中学生の時に成績が良かった子が、高校で落ちこぼれるのも同じです。その子の記憶化、情報の整理化の能力が15だったので、中学のときは10を倣っても何もしないで知識を正しく蓄えられたが、高校では30習うのでパンクしたというわけです。
ではどうすればよいか。新しく入ってくる量を、自らコントロールし制限することです。進学校に進んだから、毎日30入ってくるが、自分としては16以上は無理だから、16以上は完全に無視し、目に触れることさえしないでおこうと考えることです。その代り、その15はしっかりと身につけることです。余裕のある時、勉強の意欲が高い時はしっかりと身につける15に3つぐらい上乗せするといいです。こうした勉強をしていけば混乱することもないですし、そして知識の整理や記憶化が毎日15が限度だったものが20、25と確実に増えていきます。
中学生ならば、とりあえず平均点を目標にし、基本的なことを繰り返し復習し、毎日の限度が6のところを7とか8とかに増やしていくことです。
そうすれば成績は着実にあがります。自分の学力を見極め、新しいことがどんどん追加されて混乱しがちだったら、基本的な事項の理解と暗記で、辛抱強く平均点をとり続けてください。脳は必ず成長し、賢くなる時が来るので、その時を待ちつつがんばりましょう。