どういったことがきかっけで、小学生の子どもの学力が伸びたりするのでしょう。塾に通って勉強の面白さを知ったときでしょうか?あるいは、自分が知的な興味を持つものに巡り合ったときでしょうか?この人にだけは負けたくないというライバルが出現して、勉強でもスポーツでも競い合うことを覚えたときでしょうか?
子どもによってはそういう場合もありますが、もっと明確なきっかけがあります。
それは子ども自身が、自分という人間をしっかりと認識し、自己の内面としっかりと向かい合ったときです。自らの内面を見つめるようになったとき、子どもは思慮深くなり、自分を客観的にとらえ、社会や集団内での自分の存在や役割を意識するようになります。ものごとを考え、何かを行うにしても、自己の内面に創り上げ始めた価値基準に従って行動を決めます。
では、どんなことがきかっけで、子どもは自己認識を持ち、自己の内面と向かい合うようになるのでしょうか。それはいろいろありますが、何か大きな出来事があって子ども自身の精神が強く揺さぶられたときです。たとえば大好きだった家族の誰か、両親や兄弟姉妹と死別するとか、仲の良い友達が死んでしまうとか、そういったことによって子どもは、自らの存在に自覚的になります。あるいは子ども自身が事故に会い、死ぬ間際までいくとかです。私も小学1年生のときは、落ち着きのない、そわそわした性格の子どもで、またどこかぼんやりしたところがあって、学校の授業に集中しないどころか、授業中席をたってふらふら歩いてしまうような子供だったのですが、小学校1年生の秋に交通事故に会い、生死をさまようことがありました。病院から退院して、学校に再び通い出してからは、落ち着きのない性格は影をひそめ、落ち着きと分別のある子どもに変わりました。そしてテストの成績はそこそこ良くなりました。小学校5年のときに1学年上の兄が亡くなり、これは家族にとって大変なショックで、私自身も内省的な性格へと変化しました。そして成績は、たいして勉強もしないのに、大変な秀才と思われるほど大きく伸びました。
こうした不幸な出来事は、人を強くしますが、成績が良くなるために不幸な出来事を待つというのはありえません。
では、他に方法はないのでしょうか?方法は十分にあります。自己の内面に目を向けさせるようなイベントを繰り返し行えばよいのです。キャンプなどがぴったりです。キャンプ場にテントを張り、大自然の中で数日間の生活をする。自分と大自然を比較し、自分とはどういった人間かに思いを巡らし始めるようになります。学問的なことはいりません。あの雲は積雲だとか、この草はオオバコだとか、あの星は北斗七星だとか、一等星がなんだとか、そういった学問的な知識はいりません。子どもが自分の内面を見つめることがキャンプでの最重要のテーマですから、山々の雄大さ、川の清らかさや美しさ、夜空の神秘、闇の怖さ、そういったものを子どもが五感で感じ、味わうようにすればいいのです。自然の豊かな営みを感じればいいのです。それら自然と対峙した時、子どもの関心は、目の前に広がる自然と、それと相対する自分という存在の両方に向かいます。
キャンプは海ではなく山がいいです。山は海よりもはるかに複雑な自然の営みがあります。
食べ物も、自分たちで火をおこし、野菜や肉や魚といった素材の加工からきちんとおこないます。スーパーやコンビニで買ってきたものですましてはだめです。サバイバルのような生活体験をすることで五感の働きを強めるのです。
こうしたキャンプ以外にも、ハイキングなどもお勧めです。高い山を登る必要はありません。自然が豊かにあふれている登山道を楽しく歩くだけでも十分です。大きな自然と触れることで子どもはしだいに自分を見つめるようになっていきます。