中学生の理科の化学分野は苦手な人が多いです。中でもイオンや電気分解は苦手な人がかなり多いですね。
そこで、陽イオンと陰イオンの理解で注意することをいくつか述べます。
・原子とは何か
陽子という小さな丸い粒と中性子という小さな丸い粒がいくつか集まって原子核というのができています。例えば、赤いビー玉を4つと青いビー玉を4つ、ガムテープでグルグルと巻いて、でこぼこの球形を作るとします。赤いビー玉が陽子、青いビー玉が中性子です。ぐるぐると丸めたいびつなでこぼこの球形が原子核です。実際にはガムテープはなく、陽子と中性子は互いにひきつけあって球形になっています。赤いビー玉が3つのときは、青いビー玉も3つ、赤が6つなら青も6つというように数が等しくなっていることが多いです。けれども必ず同じ数だけあるわけではありません。
また、陽子の数によって物質の種類が決まっています。陽子1個ならば水素です。陽子が6つならば炭素です。陽子が8つならば酸素です。79のときは金になります。水素・炭素・酸素・金は完全に別の物質であり、水素が金になることは決してありません。炭素が金にもなりません。けれども、それぞれの物質を作っている材料は皆同じなのです。陽子と中性子という粒、そして電気の源である電子の3種類だけが材料になっています。たった3種類の材料が、数が違うだけで全く別の物質になってしまうのです。この不思議さは私たちの日常生活を例にして考えるといっそう強く実感されます。
たとえば、カレーを作っている材料は肉・ジャガイモ・ニンジン・玉ねぎ・カレールウです。これらの材料からできるのはカレーだけです。これがシュークリームになったり、野菜サラダになったり、ようかんになったりはしません。ところが原子の世界では、ジャガイモ・ニンジン・玉ねぎ・肉・カレールウの分量を変化させるだけで、カレー、ケーキ、キャンディ、チョコレート、野菜サラダ、焼そば、どら焼きとなんでもできてしまうのです。肉100g、ニンジン150g、ジャガイモ150g、玉ねぎ100g、カレールー800gだったのをジャガイモだけ300gにしたら、出来上がったものはカレーではなくてクリスマスケーキだったという具合です。
陽子と中性子と電子だけ押さえればいいのだから、実は化学の理解はそんなに難しいことではありません。
・原子核の周りを電子が飛びまわって原子となっている
赤いビー玉と青いビー玉をぐるぐるとガムテープで巻いたようなでこぼこの球形をした原子核。その原子核の周りを、電子が常にぐるぐる飛びまわっています。これが原子です。電子は中学2年生で習った、あの電子です。電気の正体です。水素の原子核のまわりも、金の原子核のまわりも、鉄の原子核のまわりも、すべての原子核のまわりを電子がとびまわっています。ちょうど地球の周りを月や、あるいはたくさんの人工衛星がぐるぐる回っているのと同じです。なので原子は、はっきりとしたガチガチの硬い物質ではありません。電子が動いてる分、原子全体も輪郭がはっきりせずに、ぼわーっとしているのです。原子核と電子がセットになって原子なので、電子が動いているということは、原子の表面が揺らぐように動いているということです。
そしてもう一度確認のためにいうことは、すべての原子は原子核と電子からできているということはすべての原子が電子を持っているということです。水素も酸素も炭素も鉄も金も電子を持っています。これらの原子が集まってできている地球上のすべての物質、土も木も海水も岩も、人間の体も、何もかもが電子を持っているのです。
・原子核の陽子の数と電子の数は同じ
原子核の陽子が1つなら、まわりを飛んでいる電子も1個です。陽子が60なら60の電子が飛びまわっています。これはなぜかというと、陽子と電子は互いにひきつけあっているからです。
・陽子は電気的にプラス。電子は電気的にマイナス。
陽子は電気の性質を持っています。電気の性質って何だろうと思うでしょう。光る、熱を出すなどの性質です。雷みたいなものです。そして電子も電気の性質を持っています。そして電気の性質は2種類あります。プラスの性質とマイナスの性質です。乾電池の+極、-極のあれです。この+と-という名前がよくありません。数学の足し算の+、引き算のーと混同しやすいからです。電気の+と-は、数学の+と-と全く関係がありません。名前がたまたま同じだけです。何かが増えて電気が+になった、何かが減って電気が-になったのではありません。電気の性質をAとBという風に、+や-の記号を使わずに表せば混同しないでよかったのでしょう。電気の性質に+と-という名前を付けたのは人類のミスです。
電気の+と電気の-はひきつけあいます。電気の+と+は反発し合います。電気の-と-も反発し合います。磁石のNとSと同じ関係です。磁石もNとSの2種類がありましたね。あんな感じで電気も性質が+と-の2種類あるのです。
陽子が電気的に+の性質を持っているので、電気的に-の性質を持つ電子と引き合うのです
・電子をなくしてしまったのが陽イオン。電子が増えたのが陰イオン
原子の中に陽子と電子は同じ数ずつあるので、原子全体は電気的にゼロです。無です。電気の性質を原子は全く持っていません。+の電気とマイナスの電気が仲良くそろっていると、全体は電気がない状態になるのです。原子の中に陽子が100個あって、100個分の強い+の性質を持っていても、まわりを飛ぶ電子も100個で、100個分の-の性質をもつので原子全体はゼロになるのです。
ところが、このバランスが崩れることがあります。原子核のまわりを飛んでいた電子が、1つとか2つとかの数だけ逃げて行ってしまうのです。そうすると陽子の持つ電気的にプラスの性質が、電子が逃げた分だけ強くなります。このときの原子の状態を陽イオンと言います。
陽イオンの陽は+を日本語にしたものです。太陽の陽です。明るいというイメージの語です。+もプラス思考で分かるように明るいイメージです。陽イオンをプラスイオンと呼ぶこともあります。ただ明るいイメージの語を使っているだけで、実際に明るいわけではありません。そこも注意しましょう。イオンとは、原子が電気の性質を帯びた状態を言います。陽イオンと原子は見た目はほぼ同じです。電子というとても小さな粒が1個か2個、逃げてしまっただけで、全体の姿は変わっていません。性質は大きく変わってしまっていますが。
また陰イオンとは、電子が1個か2個やってきて、原子核のまわりをまわりだしたのを言います。陽子と電子の数が同じだったのに、電子がやってきて、電子の数が多くなり、その分だけ電気的に-の性質が強くなったのです。陰イオンの陰は日陰、暗いイメージです。マイナスも暗いイメージの語です。けれども実際に暗いわけではありません。
つまり電子が減って、電気的に+(プラス)の性質になり、陽イオンとなったり、電子が増えて、電気的に-(マイナス)の性質になり、陰イオンになったわけです。この+と-を、先ほども述べたように、数学の増える・減るの+と-と一緒にすると大きく間違えるので気をつけてください。
・どういったとき原子はイオンに姿を変えるのか
原子がイオンに姿を変える、言い換えれば、電子を手に入れたりなくしたりするのはどういったときかというと、水に溶かしたときです。たとえば、食塩は水に溶かすと食塩水になるのですが、食塩の理科での呼び名である塩化ナトリウムは、塩化物イオンという陰イオンとナトリウムイオンという陽イオンに分かれるのです。ナトリウム原子が持っていた電子が塩素原子に移り、ナトリウム原子はナトリウムイオンになったわけです。ナトリウム原子から電子をもらって塩素原子は塩化物イオンというものに変わったのです。電子1個か2個の移動で、物質がガラッと変わってしまうのはすごいことです。